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札幌地方裁判所室蘭支部 昭和58年(ワ)79号 判決 1985年9月09日

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地について、札幌法務局伊達出張所昭和五七年四月七日受付第二〇七

一号の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もと訴外菊地為三郎の所有であった。

2  訴外菊地為三郎は、昭和五六年一二月三日死亡し、昭和五七年三月二五日相続人である原告、被告、訴外石川カネ、同佐々木トキ及び同菊地繁雄の間において遺産分割協議が成立し、原告が本件土地を相続した。

3  本件土地には、被告を所有者とする札幌法務局伊達出張所昭和五七年四月七日受付第二〇七一号の所有権移転登記

が経由されている。

よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき、右登記の抹消登記手続をなすことを求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  遺産分割協議の修正

(一) 昭和五八年一月一五日、訴外佐々木を除く相続人間で、本件土地の持分二分の一を被告に、その余を同佐々木及び同石川に相続させる旨、請求原因2記載の遺産分割協議を修正する合意をし、後日同佐々木もこれに同意した。

(二) 仮にそうでないとしても、昭和五七年三月末ころ、同佐々木を除く相続人間で、本件土地の持分二分の一を被告に相続させる旨、請求原因2記載の遺産分割協議を修正する合意をし、同年六月一五日ころ、同佐々木もこれに同意した。

2  本件土地の贈与

(一) 原告は、被告に対し、昭和五七年三月末ころ、本件土地の持分二分の一を贈与した。

なお、原告は、被告に対し、同日ころ実印を、数日後に本件土地の登記済証を各交付し、数日後に印鑑証明書を送付した。

(二) さらに、原告は、昭和五八年一月一五日、本件土地の持分のうち、右(一)で被告に贈与した残二分の一を、同佐々木及び同石川に贈与する旨の意思表示をし、同石川は同日、同佐々木はその後いずれも承諾した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は、全部否認する。

2  同2(一)の事実中被告主張のころに、被告に対し原告の実印、印鑑証明書及び本件土地の登記済証を交付又は送付した事実は認め、その余の事実及び同2(二)の事実は否認する。

なお、原告が被告に対し、右実印等を交付又は送付したのは、同月末ころ、原告が被告に対し贈与しようとした、本件土地のうち車庫に見合う分の土地について、被告が所有権移転登記手続をとれるようにするためのものであった。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。

二  抗弁について判断する。

1  まず、抗弁1について検討する。

被告の主張する遺産分割協議の修正とは、一旦成立した遺産分割の全部又は一部を解除し、再度分割の合意をなすことをいうものと解されるところ、右のような合意が許されるかについては、消極的に解するのが相当である。即ち、民法九〇九条本文により遡及効のある分割について再分割のくり返しが許されるとすると、法的安定性が著しくそこなわれるおそれがあるうえ、右遡及効により相続開始のときから当該権利を有することとなった者のみがその権利の処分等をなし得るものとしても、同人から贈与等を受ければ、実際上右遺産分割協議の修正と同様の結果を実現でき、当事者に不利益は生じないことからして、右遺産分割協議の修正の合意は許されないものと考えられる。すると、抗弁1の各主張は、主張自体失当であることになる。

2  次に抗弁2(一)について判断する。

(一)  原告、被告各本人尋問の結果によれば、昭和五七年三月末ころ、被告が原告方を訪れ本件土地のことについて話し合い、その際、原告が新聞の折込広告の裏面に贈与する土地の範囲を示す線を引いたことが認められ、同日、原告が被告に対し実印を交付し、その数日後、本件土地の登記済証を交付、印鑑証明書を送付したことは当事者間に争いがない。そして、被告本人尋問の結果中には、原告が折込広告の裏面に引いた線は本件土地をほぼ二分するものであった旨の供述があり、他方、原告は、右実印等の交、送付は、同月末ころ被告に贈与しようとした本件土地のうち車庫に見合う分の土地について、被告が所有権移転登記手続をとれるようにするためのものであったと主張し、原告本人尋問の結果中には、原告が引いた線は、車庫分の土地の範囲を示したものであった旨の供述がある。

(二)  成立に争いのない甲第五号証、証人石川文夫の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、(ア)同月末ころ、被告が原告方へ赴いた契機は、請求原因2記載の遺産分割の結果では、被告宅の自動車の出入等の利便に不十分であったことから、その分位本件土地の贈与を受けたらよいとの石川カネの助言があったこと等によるものであること、(イ)後日、石川文夫は、右原告と被告の話し合いの結果として、被告が原告から自動車が通れる分の土地の贈与を受けたと聞いていること、(ウ)同年一二月一〇日ころ、被告から本件土地の所有権全部について一時的に移転登記を経由した旨の手紙(甲第五号証)を受取った原告は、初めてこのことを知り、以後被告との間で紛争を生じたこと、(エ)その解決のため、昭和五八年一月一五日、石川文夫方に佐々木トキを除く相続人が集まり、そこで仲介に当った石川文夫が、被告に対し、一旦登記を全部原告に戻したうえ、改めて自動車の通れる分の土地をもらうようにと説得したことが認められ、これに加え、土地の一部を譲渡するに当り、その対象となる部分・範囲は最も重要な要素であり、譲渡する者は、その点については特に慎重に行動するのが通常であることを総合すると、原告に、本件土地の持分の二分の一を被告へ贈与する意思があったものと認めることはできない。そして、以上検討したことに照らし、被告本人尋問の結果中、原告に本件土地の持分の二分の一を贈与する意思があった旨の供述は措信できず、他に原告の右持分二分の一についての贈与の意思を認めるに足る証拠はない。

3  最後に抗弁2(二)について判断する。

(一)  原告、被告各本人尋問の結果及び証人石川文夫の証言によれば、昭和五八年一月一五日、本件土地の全部について被告が所有権移転登記を経由したことから生じた原告、被告の紛争の解決のため、佐々木トキを除く相続人が石川文夫方へ集まったことが認められ、被告本人尋問の結果中には、被告が原告に対し、請求原因2記載の遺産分割協議は一方的な内容であったから、本件土地の持分の二分の一については、石川カネ及び佐々木トキに譲るのでまかせて欲しいと言ったところ、原告はこれを承諾した旨の供述があり、さらに被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二、三号証、右石川文夫の証言及び被告本人尋問の結果によれば、同日及びそれ以後数回にわたって本件土地の分配等について、石川文夫、被告、佐々木トキらが協議し、被告に本件土地を相続させる旨の遺産分割協議書(乙第三号証)が作成されている事実を認めることができる。

(二)  しかし、右2でみたとおり、被告に対し昭和五七年三月末ころ本件土地の持分二分の一が贈与された事実は認められず、昭和五八年一月一五日の話し合いの席において、石川文夫は、まず被告に本件土地の全部を原告に戻すよう説得していること、さらに右石川文夫の証言によると、同日の話し合いの際、原告は話しがまとまらないまま途中で退席し、その後、残った相続人らで本件土地の分配について話し合い、さらに後日、被告らと協議し、被告、石川カネ及び佐々木トキが本件土地を取得する旨の案を石川文夫が原告に提示したが拒否されたこと、右乙第三号証によれば、右遺産分割協議書には原告の署名・押印がなく、被告本人尋問の結果によれば、右遺産分割協議書(乙第三号証)は、税金の関係で胆振支庁に提出するために作成されたものであることが各認められ、これらを総合すると、右(一)をもって、原告が石川カネ及び佐々木トキに本件土地の持分のうち二分の一を贈与した事実を認めることはできない。そして、証人菊地繁雄の証言及び被告本人尋問の結果中、原告が石川カネ及び佐々木トキに本件土地の持分のうち二分の一を贈与した旨の証言又は供述は、以上検討したことに照らし措信できず、他に原告の石川カネ及び佐々木トキに対する右贈与の意思を認めるに足る証拠はない。

4  以上検討のとおり、被告の抗弁は、いずれも採用することができない。

三  そこで、請求原因事実によると、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

物件目録

一 伊達市錦町九三番一

宅地 八二五・二三平方メートル

二 同町九三番五

宅地 四・三七平方メートル

三 同町九三番六

公衆用道路 四〇平方メートル

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